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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)10003号 判決 1959年9月19日

原告 仁田正一

右訴訟代理人弁護士 加藤真

被告 株式会社大清製作所

右代表者代表取締役 大竹敏雄

右訴訟代理人弁護士 入江正男

主文

1、被告は原告に対し、二、八〇二、四七一円及びこれに対する昭和三三年一二月二〇日以降完済に至るまでの年六分の割合による金員を支払わねばならない。

2、原告のその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の、その一を原告の負担とする。

4、この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

5、被告が担保として二三〇万円を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

≪省略≫

【立証】 ≪省略≫

理由

1、原告主張の各約束手形及び小切手を被告が振り出し、原告が現にその所持人であることは被告の認めるところで、被告の抗弁一ないし四の事実及び法律関係については当事者間に争がないから、他の被告の抗弁は次に判断するとして右争のない事実及び法律関係からすれば被告の原告に対する右各約束手形及び小切手の総債務額は二、八〇二、四七一円である。原被告はいずれも計算を誤つて金額の主張をしているが、個々の各約束手形及び小切手については金額差引計算及び相殺計算関係が明であり、かつ争がないから右争のない事実関係に基いて計算すれば以上のとおりとなる。

2、そこで、原告主張の各小切手債権について時効が完成しているか否かをみるのに、成立に争のない甲第一号証に証人宮沢丈太郎、平本昇、鈴木茂男及び加藤和男の各証言を綜合すれば、被告は昭和三二年一二月一七日の被告の債権者集会及びその前後頃原告に対する総額三〇〇余万円の債務の存在を承認していたことが認められ原告の被告に対する債権は当時本件の各約束手形及び小切手金債権を除いて他にあつたことを認めるべき主張立証がないこと、原告は現に被告の抗弁一ないし四の事実関係を争わないこと等からすれば、右時期に被告の承認していた総債務額中には本件の小切手債務も含まれていたものと解され、後に認定するように、右時期の債権者集会等において原告の右小切手債権を含む被告の総債務を右時期の頃からおおよそ六ヶ月ないし一ヶ年位支払を猶予することに原告を含む被告の多くの債権者と被告との間に協議が整つたのであるから、その支払猶予期間を除くと本訴の提起までには未だ時効期間が経過していないとするの外はなく、被告の時効完成の抗弁はたたない。

3、そこで被告の支払方法に関する債権者集会での協議成立についてみるのに、証人宮沢丈太郎、平本昇、鈴木茂男、斎藤実及び加藤和男の各証言、同各証言によつて真正に成立したと認められる乙第一、第二、第四ないし第七号証によれば、被告の事業行詰りによつて昭和三二年一二月初頃から同月下旬頃までの間にしばしば被告の債権者集会のための準備的な小債権者会議、同債権者集会の総会、同総会で選出された(選出を依頼された者からのすいせん形式をとつた模様である。)債権者委員会等が開かれて、結局右同月中に被告に対する総債権額を六ヶ月ないし一ヶ年位支払猶予し、その間に被告の事業を再建し、収益を挙げる見込を立て、その後においてその事業収益から(何等かの方法を改めて協議して)債務弁済をすべきことに各債権者と被告との間に協議が成立したこと、原告も右債権者の各集会に加つて右協議に承諾を与えたことが認められるが、右協議の趣旨は、支払猶予の最長期一ヶ年を厳格に暦数上の一ヶ年とする程のものでなくおおよそ最長一ヶ年位被告の誠実な事業再建努力をみまもり、その努力とみとおしが債権者の意に満ちる場合は改めて被告の事業遂行を助けながら徐々に債権の弁済をする方法を債権者と被告とで協議するという意味であり、その間に被告の事業再建による事業収益上の債務弁済能力の回復がなければ、改めて債権者と被告との協議をするまでもなく当然にその猶予期間後各債権者の自由な債権取立に委せるより外ないものと解され、このような判断の支障となるような証拠は見出せない。

ところで、証人斎藤実及び加藤和男の各証言からしてみても被告はその後それ程に熱心に事業再建の努力をしたともみえず、事業上の収益もたとえ少額宛にせよ債務の弁済をするだけに達する見込もないようにみえるので、右判断の結果によれば、前記債権者集会等における協議成立後ほぼ一ヶ年を経過した本訴提起の日時において原告からその債権の一時の弁済を求められても致方がなく、被告はこれに応ずべきで、結局前記各約束手形及び小切手金債務の残額に本件訴状が被告に送達された日の翌日であることの記録上明な昭和三三年一二月二〇日以降完済までの年六分の法定遅延損害金を加えて支払うべき義務があるとせねばならない。

4、したがつて、以上の金額の範囲内で原告の本訴請求を正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、民事訴訟法第九二条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(判事 畔上英治)

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